香港IFAで働くための資格試験(保険編)

香港のIFAでアドバイザーとして働くには、個人で資格試験に受かり、所属するIFAを通じて業界団体からライセンスを取得する必要がある。では、どういった内容を勉強するのか。この記事では、保険の資格について、試験の概要と内容についてご紹介。

IFAの仕事と資格試験

お金に関するコンサルティングを提供する仕事といえば、日本でもFP(ファイナンシャルプランナー)という資格がありますが、FP資格保持者の多くは金融機関や保険会社の社員である企業内FPだそうです。香港にも同様に民間団体が認定するFPの資格がありますが、この民間資格だけで仕事をするのは難しいようです。香港では、より実践的なアドバイスをする仕事として、香港の金融監督局が認定する保険と証券の資格を取り、一般的にIFA(Independ Financial Advisor、独立系ファイナンシャルアドバイザー)といわれる企業で働くという選択肢があります。IFAは、特定の銀行や保険会社から独立した立場で、クライアントの資産や家計の状況を把握し、適切な資産運用のアドバイスをします。具体的には複数の保険会社の商品からクライアントにあったものを選んで販売したり、ファンドを選んでポートフォリオを管理したりします。収入は保険会社から得るコミッションと、ポートフォリオ管理をしている場合であれば、クライアントの毎年の運用資産額に応じてサービスフィーを得ます。

では、香港で独立系ファイナンシャルアドバイザーになりたいと思ったらどうすればよいのでしょうか。認可されたIFAに就職し、かつ個人でも資格試験に受かり、所属している会社を通してライセンスを申請する必要があります。資格には、保険に関するものと証券に関するものがあり、それぞれ違う監督当局の下、違う資格試験が運営されています。この記事では、まず保険の資格についてご説明します。

Insurance Intermediaries Qualifying Examination

香港では、保険会社から独立した仲介業者はInsurance Brokerと言われ、PIBA(the Professinal Insurance Brokers Association)とCIB(the Hong Kong Confederation of Insurance Brokers)という2つの業界団体のどちらかから認定を受ける必要があります。(*2017年6月に政府機関Insurance Authority (IA)が発足し、2019年9月よりPIBAとCIBに代わり仲介業者の認定を行うことになりました。)個人としては、資格試験を受け、会社が認定を受けているどちらかの団体によってTechnical Representative(Broker)としてライセンスを受けなければいけません。Technical Representative(Broker)は保険商品を販売する際には必ず必要な資格で、日本の保険募集人という資格に近いのではないかと思います。

保険の資格資格試験を行っているのはPEAK (https://www.peak.edu.hk/en/)という団体で、湾仔に試験センター(VTC Tower)があります。試験の名前はInsurance Intermediaries Qualifying Examinationといい、下記5 種類があります。

Paper I : Principles and Practice of Insurance ★
Paper II : General Insurance
Paper III : Long Term Insurance ★
Paper V : Investment-linked Long Term Insurance ★
Paper VI : Travel Insurance Agents Examination

販売する保険によって必要とされる試験は違いますが、資産運用のアドバイスに必要な試験はPaper I(1)とPaper III(3), PaperVI (5)です。試験問題はどれも英語と中国語の併記で、回答は4択です。Paper 1と5の試験時間は2時間で問題数はそれぞれ75問と80問、Paper2と3は1時間15分で50問です。どの試験も70%以上正解すると合格です。CBE(コンピューターの試験)と PBE(紙の試験)が選択できます。コンピューターで試験を受けると、試験終了とともに成績が画面に現れ、かつ使用していたパソコンから通知表が印刷されて持ち帰れます。(さすが、あらゆるもののスピードが速い香港!)後日PEAKを訪ねると、正式な合格証を発行してくれますが、ライセンス申請時は通知表で十分なようです。どの試験もPEAKのホームページからテキストがダウンロードでき、このテキストの内容にそった問題が出されます。試験は毎月複数回ありますが、すぐに予約が埋まってしまうことがあります。各試験は2週間前に申込を締め切ることもあってか、受けたい日のおよそ2週間前にサイトをチェックすると、試験のコマが追加されていることがあります。

各試験の内容を紹介します。

Paper I: Principles and Practice of Insurance(保険の基本と実践)

Paper 1では保険に関する基本的な考え方や業界の構図などを勉強します。「リスク」とは何か、「契約」とは何かなどの概念の定義からさまざまな保険用語の解説、保険会社の役割、香港の保険業界と法規制の構造、マネーロンダリングやテロ資金調達などの犯罪対策などについて理解します。例題を一つご紹介します。

Q: Insurable interest may be described as: 「被保険利益(保険をかけることのできる利害関係)」とは下記のように定義できる;

(a) possession of certain goods; 特定の物の所有

(b)the amount always payable for insurance claims; 保険金請求に応じて支払われる金額

(c) a legally recognized relationship to the subject matter; 対象について法的に認められた関係→これが正解。

(d) the interest payment due if the insurance premium is paid late.  保険料の支払いが遅延した際にかかる利息

難しい理屈のように聞こえるかもしれませんが、ここで定義しているのは、財産や命などが失われた際に補償や手当、つまり保険金をもらう前提となる条件です。この前提が理解できると、なぜ夫の命に対して妻や子どもが保険をかけられるのに、友人はかけられないのかということが説明できます。もちろん友人であっても、雇用など法的な関係があれば保険をかけられる場合もあります。

Paper III: Long Term Insurance (長期保険)

Paper 3はより具体的に長期保険、つまり生命保険や年金についての試験です。生命保険の種類や仕組み、保証の特約についてや、保険会社の業務内容や、保険料の計算の仕組みなどについて勉強します。クーリングオフ期間(契約後21日間は解約が可能)や、生命保険の切り替えに関する警告など、消費者を守る法律についても覚えます。例題の一つを引用すると、 Which three of the following are features in calculating life insurance premiums? (生命保険の保険料計算に必要な要素は?)答えはInterest(金利) Expenses(費用) Mortality(死亡率)です。

Paper V: Investment-Linked Long Term Insurance (投資型長期保険)

Paper5は投資型保険についての試験です。債券、株式、デリバティブ(金融派生商品)、不動産、投資ファンド、など投資の基本について学んだうえで、投資型保険の成り立ちや仕組み、法規制を勉強します。債券価格や期待利益率などの計算問題もあり、試験に計算機が必要になるのが前述の2つの試験とは異なります。ROE(Return on Equity、株主資本利益率)や PER (Price Earnings Ration、株価収益率)など投資の世界でよく聞く分析も問題になっているので計算式を覚える必要があります。

実際に試験を受けた感想としては、金融の知識や経験がなくても、英語のテキストを1度か2度しっかりと読んで試験に挑めば合格できる程度の難易度です。それでも、短時間で業界の構図や香港の法律が把握できるので、とてもいい勉強になりました。そもそもリスクとは何か、保険とは何かなど、基本の概念から勉強するので、それまでつかみどころがなく複雑だと思っていた保険や金融の世界について、知識の土台のようなものをつくることができました。クライアントに保険商品について説明する際には、リスクとの向き合い方や投資についての考え方など、とても基礎的なことから説明できるので、役に立っています。

この試験に受かってライセンスを取得した場合、名刺に番号を入れることが求められています。PIBACIBのホームページで名前の検索もできます。2019年9月以降はIAのホームページでも確認できます。香港で投資をする際には、担当者が資格を持っているか確認してみてください。試しに弊社の名前”AMG Wealth Management Limited”を検索!

関連ブログ:いよいよ新・保険監督官庁の登場、ブローカーの断末魔を聞くか

証券の資格については次の記事で紹介します。

関連ブログ:香港IFAで働くための資格試験(証券編)

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