マネーロンダリング・テロ対策は他人事ではない

銀行での海外送金の手続きが変わりつつあるのは、2019年秋のFATF審査の影響。香港と日本のマネーロンダリング・テロ対策の状況を振り返る、そして今後求められるのは本人のコンプライアンス意識の醸成。

マネロン対策の今 – 日本からの海外送金 –

「海外送金が出来なくなった」

そんな声を最近耳にすることがありました…

実際、銀行側の手続きが変わってきているようですので、送金準備にあたっては、ご自身が利用されている銀行に確認を取ることをお勧めいたします。

一方で、その背景にあるのは、2019年10月末頃に予定されているFATFによる第4次相互審査であると考えられますので、ここではその話をしたいと思います。

  • FATFというのは、Financial Action Task Forceの略称で、パリに本部がある国際組織である、”金融活動作業部会”のことを指します。FATFはマネーロンダリング・テロ対策に関する国際的な政府間会合であり、国際基準の対策を策定し、参加国に対して「勧告(Recommendations)」を行い、また審査団を派遣してその遵守状況をお互いに審査し合うというものです。

FATFは2012年に「40の勧告」を公表しており、現在その相互審査を順次実施している最中です。今年ついに日本の番がやってきまして、春には書面審査を開始しており、秋には審査団が来日してのオンサイト審査を予定しています。

前回(第3次相互審査)の日本審査は2008年に行われ、日本は49項目中25項目が”要改善”という、残念ながら合格点とは言いづらい結果に終わりました。もちろん即座にペナルティというわけではなかったのですが、法制面の整備がその後進みました。2011年の犯罪収益移転法の成立もそれが背景にあります。

第4次相互審査を前に、金融庁は2018年2月6日、マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドラインを公表し、金融機関が対応すべき点に関し方針を明らかにしています。足元だと財務省が出しているこちらの資料が分かりやすいです。また、今秋のFATF審査に向け、金融庁は地銀に対して点検及び報告を求めています。もし問題点が見つかれば今夏に立ち入り検査を実施する意向ですので、銀行側がやや慎重な姿勢を継続する可能性があります。

2019年8月8日にはゆうちょ銀行が10月以降の国際送金の取扱体制についてお知らせをしています。送金額の上限引き下げ、一部外国への住所あて送金の取りやめ、かつ外国送金取扱店舗の削減が行われます。

香港のFATF審査

2018年7月16日から12万香港ドル以上の香港への現金持ち込みの申告義務化がなされていますが、これもFATFを意識しての動きだったと言われています。審査の直前、期間中はどうしても厳しくなりがち、というのは日本でも香港でも同じなのかもしれません。

香港の場合は2018年に審査が入り、2019年6月のFATF総会を受けて、6月26日のプレスリリースにて、その評価(以下、プレスリリースより抜粋)を発表しました。これまで23の国の相互審査が行われ、”通常フォローアップ国”、いわゆる合格点とされたのはたったの5カ国、そこにアジア太平洋地域で最初の地域として香港が加わります。

”Hong Kong’s system has been assessed to be compliant and effective overall, making it the first jurisdiction in the Asia-Pacific region to have achieved an overall compliant result.”

(日本語訳)香港の(金融)システムは審査基準を満たし、実効性があると評価され、アジア太平洋地域で初めて総合的な遵守を達成しました。

プレスリリースより抜粋

なお、正式な報告書(Mutual Evaluation Report)は2019年9月4日に公表されています。結果は合格点だったものの、大きな金融機関と比較して、小規模の金融機関においてはより一層マネーロンダリング・テロ支援リスクへの理解を深め、対策を講じるようにとの宿題も出されています。

肝心なのは利用者のコンプラ意識

「口座を持たない一見客の海外送金お断り」

こういったニュースを見て、「銀行なのに送金ができないなんて・・・」と思う人もいるでしょうが、要は「口座を持たないのになぜその銀行に、しかも現金を、そしてわざわざ海外に送るために来るのか」という質問に真正面から答えられるかどうかです。

海外送金サービス自体が、銀行にとって特に収益源というわけでもないのに、マネロンやテロ支援に関わったと見なされればペナルティ(罰金)が何百億円何千億円と重大であったり、メディアに取り上げられでもしたら信用ガタ落ちです。銀行側はそれだけで海外送金業務から撤退する理由に、悲しいかな十分なり得るのが実態です。仮に行うにしても担当者は細かな手続きを踏まねばならず、いわゆる”コンプラ疲れ”を招くことにも繋がっています。

実際、本人確認(Know Your Customer、略してKYC)が厳格化されています。もちろん初めからちゃんとしていたところは何のことはありません。海外の金融機関でも同じことは聞かれますし、その点で日本はやはり対応が少し遅かったと言わざるを得ません。

顧客の立場から見れば、「数年前はそんなこと気にもしてなかったけど」なんて思う手続きが今増えているかもしれないが、顧客サイドにもこういった法規制の変更への理解は必要です。面倒かもしれませんが、必要な情報や書類は揃え、正式なプロセスを踏むことで、スムーズに行くことも多いはずです。

仮想通貨(暗号資産)とマネロン

仮想通貨(暗号資産)も例外ではありません。FATFは仮想通貨業者に対しても銀行並みの対応を求める方針を固め、2019年6月21日にガイダンスを出し、2020年6月までの対応を求めることとしています。

ただ、現実問題としては暗号資産の魅力の一つはその取引スピードにあるため、本人確認が人の手を介するのであれば全く意味がありません。ただし、2019年7月18日に、日本の財務省・金融庁が主導で作成した「暗号資産版SWIFT」の創設計画が承認されており、そのハードルを劇的に下げることも見込まれています。

ちなみに、SWIFTというのは国際銀行間通信協会のことであり、銀行経由で国際送金する際に、顧客情報をやり取りするネットワークシステムです。ベルギーに本部があり、世界中の金融機関が標準化された通信フォーマットで大量の決済業務を行っており、国際的な金融インフラと化しています。また、SWIFTには米国財務省外国資産管理室(OFAC)と連携して、公的制裁リストに載った対象へのドル建て送金を拒否させる機能があります。

身近に潜むマネーロンダリング・テロ支援の危険

「ビジネスで香港で取引先から支払金を受領しなければならないのだけど、あいにく香港に口座はないから代わりに受け取ってくれないかな? 入金されたらすぐ香港におカネ取りに行くよ。謝礼はずむから」

みたいなお話、香港でしょっちょうあります。これ、十中八九オレオレ詐欺やメール詐欺によるマネーロンダリングの片棒を担がされています。日本と違うのは、あなたに一切の悪気(未必の故意)がなかったとしても、知り合いのお願いだから気楽に聞いてあげたとしても、マネーロンダリングの加害者として犯罪が成立してしまうということです。香港ではマネーロンダリングは最大懲役14年、罰金5百万香港ドル(日本円でおよそ7,000万円)です。そして香港ではマネーロンダリングは初犯でもほぼ実刑判決です。それだけ金融都市香港にとってはマネーロンダリングの罪は重いということです。仮に数ヶ月の刑務所暮らしだとしてもあなたの人生はめちゃくちゃになるでしょう。

香港にもオレオレ詐欺があります。香港の場合、典型的なオレオレ詐欺すなわち息子になりすまして年寄りを騙すという手口もあることはあるのですが、それよりも社会問題化しているのが法人に対する詐欺メールです。取引先を装い、数ヶ月かけて信用させ最後に入金させる手口です。

香港警察も啓蒙ビデオを作って加害者にならないよう呼びかけています。自分の口座への入金元、自分の口座からの入金先は自分が知っている人でないといけません。仮に上記のようにお願いしてきた人が知り合いであったとしても、あなた自身が入金元・入金先を知っていなければなりません。ですので金融機関だけでなくあなたもKYC(本人確認)が求められていると言っていいでしょう。

2020年の東京オリンピック、2025年の大阪万博と国際イベントが続く中で、日本と外国を行き来する人も増えるでしょう。また、地方でも労働力不足で外国人を雇う中小企業も増えるでしょう。語学面だけではなく、コンプライアンス意識を身につけて、自らを守っていきましょう。

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