残されたご家族のために。海外相続についてのお話と、AMGでの信託について – 2/2

信託を使うことで、海外資産のコントロールを簡便にし、自分の死後も財産を管理することができる。事業承継や音楽チャリティなど選択肢は広い

前稿からの続き。

グローバルな資産運用環境が整いつつあるのに、日本国外にある資産を相続するのは言語、費用、時間の壁が立ちはだかって一筋縄ではいかない。海外の資産を相続する「海外相続」について、理解を深めていただこうというのが主旨である。

財を成し、それを残された家族に継承するというのは家族に感謝されこそすれ、恨みに思われるなんて思いもしないだろう。しかし国内国外問わず相続においてはちょっとした行き違いが大きないさかいをうむ。その負の感情の向かう先は、争族化した家族でなく既に死んでしまった本人… ということもある。

「もうちょっと説明してくれていれば良かったのに」「もうちょっと段取りしてくれていればモメなかったのに」と、家族に恨まれることがないようにしたい。特に海外相続では、プロベートなど時間もコストもかかる相続手続きをどう回避していくかが重要となる。そこで前稿では

  1. 海外資産目録を作成し共有する
  2. 共有名義や受益者指定を利用し相続手続きを避ける

ことを説明した。弊社クライアントでも「家族に知られたくない」という理由から海外資産の存在を家族と共有していないことがある。たとえば親のすねをかじっているドラ息子がいるとして、資産の存在を知ってしまったらドラ息子がその資産を当てにしてしまって自立から遠のくような場合など家族自治にバランスが要求される場面もある。なので「家族に知られたくない」という場合は2.が可能かどうかを検討してみると良い。2. だけでも海外相続を簡素化するには十分であることが多い。たとえば海外生命保険に受益者をしておきさえすれば、死亡証明書とともに受益者の振込先を指定するだけで終わる。

ここではさらに進んで「家族信託」を紹介したい。家族信託を利用することで、以下のようなことが可能になる。

  • 海外資産を一箇所で管理できる
  • 自分が死んだあとも、資産をコントロールできる
  • 個人の資産と事業の負債を完全に分けることができる

もちろんプロベートを避けることができるのも信託利用のメリットの1つであるが、上記メリットに比べればオマケ的なメリットでしかない。

信託 = 贈与

信託の歴史などについては、他のウェブサイトをご覧いただくとして「信託する」ということが法的にどういうことなのかを説明する。

日本の信託との違い

信託は、法的には贈与である。信託に贈与する。信託をすると、法的には自分の資産ではなくなることになる。誰の資産になるかというと、信託の資産となる。もちろんこれは「擬似的に」である。資産のコントロール権は本人に残り続け、信託に預けた資産の管理や処分ができる。

この「自分のものではなくなる」という法的擬制が日本の信託制度と大きく異なるポイントだ。日本の信託制度は、成年後見制度を補完する制度にすぎず、所有権が移転するわけではない。あくまで相続をスムーズにするための制度、という位置づけでそれを超えて代々の事業承継、家族資産の保全までは射程にない。

では次に信託における役割について紹介したい。

委託者

信託をする本人。

受益者

受益者なしの信託も存在するが通常は信託は代々の資産継承に用いられるため信託から何らかの利益を得る立場の人がいる。それを受益者と呼ぶ。たとえば信託から生活費を得たり、受益者のチャリティ活動のための資金を捻出したりする。

受託者

信託とは「信じて託す」と書き英語では「Trust (=信頼)」というくらいなので受託者には高度な専門性と倫理が求められる。香港では受託者となるためにはそのためのライセンスが必要である。また受託「者」とは言うものの自然人が受託者になることはほとんどなく、通常は法人だ。また、受託者たる信託法人のライセンス番号から実在する信託法人化を調べることができる。アメリカを含めて英米法系の国々では信託の仕組みが存在し、信託法人をオンラインで調べることができる。たとえば香港では、こんな具合にオンラインで公開されている。

受託者(=信託法人)の役割

信託は、所有権の移転を擬制する。それが信託法人に与えられた唯一の存在理由だ。信託は主体性をもたないので、委託者からの命令は絶対となる。「信託が言うことを聞かなくて大変でさ…」みたいなことは起こらない。財産の処分や信託の解散も委託者が決定することができる。

信託は委託者の命令を粛々と実行するだけの存在なのだ。

委託者の死後も実行する

人間は死ぬが、信託は死なない。そして信託が死なない以上、半ば永遠に委託者の意志が信託に残ることとなる。たとえば、ノーベル財団を創設したアルフレッド・ノーベルも信託を設立し自身の資産の運用を信託に託している。運用益の3%をノーベル賞の財源とすること、運用委員会を作って運用方針を決めさせることなどは彼の生前の意志で、信託はそれを粛々と実行しているのだ。

また、たとえば富裕層がチャリティに寄付するような場合に資金を一度にチャリティに寄付するのではなく段階的に寄付するような場合に信託が使われる。信託がなければ、生前に財産を一括寄付するしかない。

Will(信託への命令)

委託者は、受託者に対して命令をするわけだが日本語で「遺言」とも訳されるWillを書くことになる。Willは委託者がいつでも書き直すことができるが、委託者が亡くなってしまってからは最後のWillが有効となる。書面にサインをするだけでWillは書き換えられるが、後々で紛争になりそうな場合は日本のように公証人が立会人となり、公正証書とすることもある。Willには以下のようなことが記載される。

  1. 受益者リストと、その配分
  2. 受益開始時期。たとえば子供が30歳になってから、等
  3. 信託期間。香港のデフォルトでは150年。
  4. 資産運用の方針
  5. 信託期間が過ぎればどうするか。香港では通常、チャリティに全額寄付されることが多い

信託だからこそできること

信託行為とは、贈与である。財産に対する所有権が、受託者(信託会社)に移転する。擬似的にせよ、信託財産は自分の資産ではなくなるのだ。そして、まさにこの所有権の移転こそが信託のキモとなる。信託によってプロベートが不要になるのは、そもそも自分の資産ではなくなるから相続も何もない… といった思考だ。

信託に「信託」できる資産

信託は、いわば株主のいない財産管理会社であり海外資産の四次元ポケットとなる。香港外の資産でも、所有の概念があるものであれば信託財産に組み入れることができる。例えば、以下のようなものだ

  • 上場株式、現物債券、ファンド、ヘッジファンド、生命保険などのペーパーアセット
  • 未上場株式。たとえば自社株式など。
  • 不動産。ただし現物で信託するとコストが高くつくので、BVIなどのオフショア法人に不動産をホールディングさせその会社の株式を保有する形で保有する

海外資産が様々な国にまたがって分散し保有している富裕層の場合、現地の法制を意識したエステートプランニングが必要になるが信託に資産を集約することでこれを避けられる。

このほか、たとえば事業承継における信託では相続時に株式の代償分割が不要になり経営が安定するなど、所有権の移転を擬制するからこそ可能になるファイナンシャル・プランニングは無数に存在する。

たとえば、以下のようなプランニングが考えられる。

生命保険と組み合わせる

生命保険契約の受益者を信託に設定しておく。死亡保険金が信託に支払われることで、相続税納税資金を信託からまかない残りは運用。次の代にも同じ生命保険を契約し、代々「減らない」家族資産を承継する。「資産は三代でなくなる」と言われるが、海外の利回りの高い資産運用と、生命保険を組み合わせ、資産防衛と資産継承を同時に目指す。

教育資金基金

「基金」と名はついているが、財団を作るわけではない。財団は理事会があったり監査が必要だったりと、かなりの資金ボリュームがないとできないが、信託であれば同じようなことが達成できる。この例では、自身の資産を未来の子どもたちの教育資金に充当するWillを残し、実行する。もちろんWillに書くものは何でもよいので、ファミリーに子供ができたら一律1,000万円、などの子供手当てでもよい。また、受益者は家族でなく血縁関係のない第三者でも良い。

土地持ちトラスト

トラストは株主の存在しない資産管理会社のようなものだ、と前述した。株主が存在しないということは、株式の移転もあり得ないことになる。したがって不動産を一度信託に入れ込んでしまえば、その先かなりの税効果が期待できる。

信託のデメリット

専門家と協力が必要

信託はショッピングモールの保険ショップで買えるような気軽なものではない。委託者が死亡した後も続くことが前提とされるので、委託者は我々のようなファイナンシャル・アドバイザーはじめ弁護士、税理士など様々な専門家と相談する必要がある。

日本の民法と調整が必要

信託は贈与行為なのだが、日本に海外信託のような概念はそもそも存在していない。日本の居住者である以上、相続税から必ずしも逃れられるわけではないし、また信託に対する遺留分減殺請求を完全に防御できるわけではない(香港の信託には外国の遺留分減殺請求から保護する主旨の法律がTrustee Ordinance Section 41Yにあるものの、香港の信託法が日本の民法に必ず優先して適用されるわけではない)。まだ判例がないこともあり、海外信託における日本の民法との調整は避けられないだろう。今の段階では、海外信託により海外資産を一箇所に集めてプロベートを避け、相続を簡単にするものだが日本居住者である以上日本の税金は支払う必要があるもの、と理解しておけばいいだろう。

信託コスト

通常、安くても年間20-30万円からで複雑なものとなると年間数百万円かかる場合もある。しかし信託財産がすべてペーパーアセット(株式やファンドなどの有価証券)である場合、弊社のように資産運用のアドバイザリー・フィー1%のサービスに含めて提供する(すなわち委託者からみると無料)ことも可能だ。

AMGでの信託

弊社でも相続や事業承継のための信託を取り扱っている。税の専門家などとも協業し、ワンストップでサービスを提供可能だ。信託自体は一つのハコにすぎないが、そのハコに入れるもの、そして信託を使って成し遂げたいことは百人百様だ。ちなみに弊社で実行している信託を例として3つほどあげておく。

シンプルな家族信託

  • ペーパーアセットのみ、あわせてUSD4,000,000前後
  • 海外事業で成功
  • 相続は複雑化しないと予想されるが、費用対効果が優れているため決断
  • 年間信託コストはAMG負担

事業承継のための信託

  • 日本国内未上場株式、純資産USD1,000,000前後
  • 兄・弟がおり兄に会社を継がせたいのでWillには議決権はすべて兄に。
  • 年間信託コストはUSD3,500

音楽チャリティのための信託

  • 現物債券(年3-4%程度のクーポンが出る、比較的安全なもの)ばかりでUSD6,000,000
  • 若手音楽家のための活動資金捻出として上昇分の半分を充当
  • 年間信託コストはAMG負担

他にも「こういうアイデアはどうか」「これは信託資産として認められるか」など、ぜひ弊社AMGにご相談いただきたい。

信託に興味がある方 → まずは問い合わせ

QRコード https://amgwealth-jp.com/?p=1519

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