アマゾンのCEOを信託で更にお金持ちにするには

アマゾン創業者のジェフ・ベゾスが信託を組んでいれば、彼はもっとお金持ちになれたのに

マイクロソフトのビル・ゲイツが信託を組成していたらもっとお金持ちになれたのに

信託サービスを提供する会社の営業トークでよく使わるこのフレーズ。ビル・ゲイツは何年も世界一お金持ちだったから、このフレーズは悪い冗談でしかないのだが、信託サービスを提供する会社は大真面目で客に信託のアイデアを売り込む。ビル・ゲイツがマイクロソフトの所有株式を早めに信託していれば、信託がタックスシェルターとなり資産がさらに効率よく増える、というわけだ。

最近、このフレーズにジェフ・ベゾスが加わった。

「アマゾンのジェフ・ベゾスが信託を組成していれば、財産分与はもっと少なくで済んだのに」

ジェフ・ベゾスのほうは離婚で4兆円分の株式分与があったがそれも信託で個人財産と切り分けておくことで奥様の財産分与からも自由になれたというものだ。(とはいえ報道を見る限り円満離婚であったのでジェフ・ベゾスが信託を組んでいたとしても同じだけの財産分与が得られたのかもしれないが)

信託は富裕層の嗜好品

信託サービスとオフショア金融ビジネスは切っても切れない関係にある。資産を家族問題や税金で摩耗させず、代々継承させるためには信託が今のところもっとも使いやすいツールだからだ。香港にはライセンスのある100社以上の信託が登録されており、香港からさらにケイマン諸島やBVIなどのタックスヘイブンに信託を組成するサービスの会社も含めるとその数は倍以上になるだろう。

アメリカやイギリスのように国内にオンショア・オフショアを持っている国はともかくとして国内にオフショアがない国々のマネーはオフショアを目指す。オフショア国は富裕層に有利なように税金を優遇する。もちろん、そこには信託が絡む。信託を使うのはカネにうるさい人だけではない。

「自分はカネにきれいでいたい。だから事業が成功しても税金もちゃんと払うし、離婚しても財産分与はきっちり支払う」

素晴らしいお心がけである。実際に事業に成功されてこのようにおっしゃる方は少なくない。しかし本人がいかに清廉な方であっても周囲が清廉でなければ、結局本人もその清廉でない部分に巻き込まれてしまう。清廉でない人にとって、清廉であり続けることは難しい。たとえば自分が20年手塩にかけたビジネスで成功し、結婚生活1年の妻と離婚することになった場合に少なくともビジネスから派生する利益については財産分与が半分… というのは心情的に納得できないだろう。ジェフ・ベゾスの元奥様マッケンジー・ベゾスはアマゾンの創業期から陰に陽に夫を支えていたこともあり、巨額の財産分与が正当化された。

同じことが相続においてもいえる。献身的に尽くしたお手伝いさんに妻と同額の財産を相続させるとしよう。金額は一生遊んで暮らせる額としても、妻のほうがそれに納得しなければ本人がカネにきれいでいたとしても、周囲がカネに汚ければ本人はそれに巻き込まれる。

「信託はプライベートジェットと一緒で富裕層の嗜好品」と言われるのはそのためで、なくて困るものではないがあれば信託を使って本人のステータス、他人にどう思われるかというイメージを守ることができる。

さて、富裕層の嗜好品といわれる信託。まったく余計なお世話であるが、ジェフ・ベゾスに元奥様からの財産分与請求から守るために僕たちがアドバイスするできたとすれば、どのタイミングで信託を設定すればよかったのだろうか。現在ベゾスは間違いなく世界最高の法律顧問、ファイナンシャル・アドバイザーがついて何らかの信託は利用しているだろうけれど。

1. 創業直後

アマゾンは1994年に創業し、1996年にアメリカ国内のタックスヘイブンであるデラウェア州に法人を再登記、1997年にドットコムバブルに乗って上場している。創業からたった3年で上場しているのだから驚異的だ。創業直後から自社株を信託していれば、会社への影響力は保ったまま税効果の高い運用ができたかもしれない。

上場前の法人株式でももちろん信託することはできるものの、すでに1996年には上々に向けて準備をすると宣言、上場申請してしまっている段階での信託化は難しい。当のベゾスだって死にものぐるいで働いているときに財テクに頭を使うことなんて考えられないだろう。

それに創業当初から世界一のEコマース事業者になるとは思ってもなかっただろうし、今の稼ぎ頭であるAWSなんて想像もしていなかったに違いない。それに創業直後は何かと入用で、信託にコストをかけるくらいなら広告や営業にコストをかけたいだろう。

なので創業直後に信託を設定していれば良かったというのはあまり現実的でないかもしれない。

2. ドットコムバブルが弾けたあと

2000年にドットコムバブルが弾けて、アマゾンの株価は当時の最高値の10分の1となった。おそらく誰も「ドットコム企業に投資をするのはうんざり」と思っていたころだろう。しかしベゾスはへこたれることなくアマゾン帝国の完成を目指した。ドットコムバブルが弾けたのであれば、安い値段で株式を買い戻すこともできたかもしれない。そこで信託と自社株買いを組み合わせて税効果の高いスキームを組むことはできる。

3. 子供ができたタイミング、養子をとったタイミング

信託は家族問題を解決する。実子か養子かを問わず、自分の遺産をどのように配分するか、あるいは配分しないかについて決めておくことができる。信託を設定するタイミングでもっとも多いのは、子供が生まれたときだ。富裕層にとっては子供が生まれたら生命保険を購入するような感覚で信託を設定するようだ。

ジェフ・ベゾスには3人の実子と1人の養子がいる。彼の富はこれら子供にどう配分するかは分からないが、信託を組成することで法定相続でない相続方法を指定することが可能になる。

マーク・ザッカーバーグはどうしたか

フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグは相続税対策のために保有株の99%を慈善団体に寄付をした。アメリカでは相続税は最大40%かつ物納が認められていないため相続人は数兆円もの現金を用意する必要がある。もしフェイスブック株を市場で売却して2兆円をこしらえようとすると大暴落してしまうためそもそも2兆円を用意できない可能性もある。

相続税対策ではあるが、これは同時に離婚の財産分与請求対策にもなりうる。すでに株式はマーク・ザッカーバーグの手を離れてしまったので奥様と離婚することになっても財産分与の金額は限られている。しかしマーク・ザッカーバーグが会社の議決権を保有し続けることによって、慈善団体というツールを通して間接的にフェイスブックをコントロールし続けることができる。

フェイスブックの経営を安定させながら、自分の相続税対策、離婚対策にもするという賢いやり方だ。さらに信託することによってアメリカなど英米法圏で必要なプロベートを避けることもできる。

いやはや、世の中の金持ちと言われる人は抜け目なく金融ツールを使って起こりうる問題を先に排除しておくものなのだとつくづく思う。

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