違う! バフェットはゴールドを買っているわけじゃない!
ゴールド投資に否定的なバフェットが変節した、金価格の上昇についていきたい、などのメディアに対する反論
ここ最近、ゴールドの価格がよく動いているので、お客様から頂いたゴールド・ネタを。
お客様「投資の神様・バフェットがゴールドを買ったそうです。乗り遅れないうちに小椋さんもゴールド買ったらどうですか」
そうですか。バフェットがゴールドを買いましたか。ゴールドをポートフォリオに組み込むことに対しては否定的な僕に対して「小椋は間違っている」とおっしゃりたいわけですね。どれどれ…
日本経済新聞: 「金嫌い」のバフェット氏、金投資に動く
なるほど。バフェットが変節した、と。
ウォール・ストリート・ジャーナル: バフェット氏も「ゴールドラッシュ」に便乗、消極姿勢転換
ふむふむ。バフェットは金価格の上昇に便乗したい、と。他にもいろいろ記事を読んだが、だいたいの要約としては、
- ゴールド投資に否定的なバフェットがゴールド投資を始めた(変節)
- ゴールド価格の上昇に期待している(追随)
という2つのことに力点が置かれている。メールを下さった方はゴールドへの投資が好きで、田中貴金属の純金積み立てもしてらっしゃるくらいである。インフレヘッジ、価値の保存という点でゴールドを保有するのはとんでもない安心感があるそうだ。僕がたびたびゴールド保有に対してディスったような記事を書くのでそれに対するカウンターオピニオンの頂いている、という状況である。
「ついにあのバフェットが… 降参。僕も乗り遅れないうちに金投資をば…」
とは問屋がおろしません。上で紹介した日経、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事も実に表面的なことしか書いていない。僕の見立てではバフェットにとってはこの投資はあくまでバリュー投資でしかないと考えるのが素直だろう。
根拠1. バフェットが投資をしているのは金鉱山会社の株式
まずバフェットは金投資(ETFなどペーパーゴールドや地金などフィジカルゴールド)はもちろん金の価格に連動する。しかし金鉱山株式は株式市場での取引なので、その会社自体の人気度や将来性に影響する。それに金鉱山株式は法人という形態なのでもちろん利益を配当することが可能になる。まずはそこが大きな違いだ。
バフェット自身が言うように、会社と違ってゴールドはなにか価値を生み出すものではない。生み出すキャッシュフローがない以上、それが高いかやすいかを判断するのは難しい。しかし金鉱山会社となると事情は異なる。会社は人間が駆動するもので、マネジメントの良し悪しで同じ金鉱山会社でも優劣はつく。より良いマネジメントをした会社が、そうでない会社よりも理屈の上では株価は高くなっても良い。それに会社は配当を出す。投資家にとってのキャッシュフローがあるので、他の会社の株式と比較検討が可能だ。
すなわち、バフェットが好む「バリュー投資」すなわちの俎上に乗るというわけだ。
根拠2. 投資対象のバリック社は金鉱山業界では最強
そしてバリックは業界二番手で、とんでもないキャッシュフローを生み出している。そして昨年、業界一位のニューモントと合弁会社を設立している。日本の航空機業界でいうとANAとJALが一緒になったようなものだ。金鉱山業界で名実ともに最強の地位に上り詰めたわけで、とんでもないキャッシュフローを生み出している。
バフェットならこう考えるだろう。
「潤沢なキャッシュフローがありながらそれが株価に反映されていなければ買いだ」
これはまさにバフェットの真骨頂、バリュー投資である。バフェットがケチャップのハインツやコカ・コーラに投資したのと同じ理由でバリック社に投資をした可能性が高い。シンプルなビジネスモデル(誰がCEOでも大きく業績が変わらない)、独占的地位、需要の安定。
またチャートを見てもらえると分かるがゴールド価格とバリックの株価は同じようには動いていない。もちろん最終産品である金価格の動きには株価は影響を受けているだろうけれど、バフェットが「変節してゴールド・ラッシュにあやかりたい」となるのはピントがボケている。
根拠3. バークシャー・ハサウェイのポートフォリオでの存在感
3つめは「バフェットがゴールドの上昇の流れに乗りたいと考えている」ということに対する反論だ。
バークシャー・ハサウェイのキャッシュを除くポートフォリオ・サイズは2,500億米ドルだ。そしてバリック社への投資額は6.14億米ドル。ポートフォリオ・サイズに対してわずか0.25%である。1億円のポートフォリオに引き直せば25万円相当だ。しかもこれは「バフェットが投資をしたから」と他の投資家がこぞってバリック社の株式を購入したから上昇したのであり、上昇する前ではポートフォリオ全体に占める割合はわずか0.16%程度にしか過ぎなかった。
もし金価格の上昇基調についていきたいとするなら、0.25%ではなくせめて25%はポートフォリオに組み込まねばならない。この点でもバフェットがゴールド上昇の流れに乗ろうとしている、というのは無理がある。
まとめ
- バフェットはゴールドそのものではなく金鉱山会社に投資をしている
- バリック社は金鉱山業界最強、素晴らしい会社なのに割安だとバフェットが判断した公算大
- ポートフォリオ中わずか0.25%でバフェットが変節したというのは無理
AMGとしてゴールドは
もちろん、ゴールドに対するニーズがあるのは百も承知している。そしてAMGでお預かりしている一部ポートフォリオにもゴールドが入っていることを考えると僕がゴールドに対して否定的なことを言うことは整合性が取れないかもしれない。
社内どころか自チーム内でもアドバイザーによってゴールド投資のアドバイスについては意見が分かれるところではあり、結局のところゴールドを買うか買わないか・買うとしてどれくらい買うかというのはお客様の嗜好によるということにはなる。
そしてそういった嗜好のないお客様であれば弊社の標準的なポートフォリオが採用されるわけだが、資産運用においては個人の極端な意見よりも平均的な意見のほうが正しい。私の意見のみが反映されたポートフォリオよりも、みんなで持ち寄った意見が反映されたポートフォリオのほうが安定的にリターンをあげることは統計的に証明されている。何事も中庸が肝心…