IFA業界は報酬のパーソナライズを実現できるか

香港IFAが苦手な「報酬のパーソナライズ」について

キャップジェミニによる調査

キャップジェミニというコンサルティング会社が行う「世界の富裕層レポート」という無料レポートを毎年楽しみに読んでいる。このレポートの発行は毎年1回、世界の富裕層(金融資産でUSD1m以上、m=1,000,000)の人口推移や彼らのポートフォリオ状況が書かれている。

2019年は2017-2018と違って富裕層人口が8%増えた。ちなみに2017-2018年は株式市場が全世界的に不調だったため金融資産も減らした。2018-2019は逆に株式市場が好調であったため富裕層人口ならびにその全体資産ともに8%程度伸びている。

ポートフォリオの推移では、自分の事業そして居住用不動産を除く全体資産におけるポートフォリオの推移についての調査がなされていて、株式と債券そしてオルタナティブ(ヘッジファンドなど)でだいたい60%を占め、不動産が全体の15%、残り25%がキャッシュという構成で推移している。富裕層といえば不動産… といったイメージだが実態は少数派だ。

そして毎年、このレポートには上記のような量的調査とあわせて様々な特集が組まれる。キャップジェミニという会社がデジタル・トランスフォーメーションに強みがあるためもあってプライベートバンクやIFAなどのウェルス・マネジメント事業におけるデジタル化やGAFAがウェルス・マネジメント事業に乗り出したらどれくらいの顧客が興味を持つか(=プライベートバンクやIFAが廃業するか)なんていう刺激的な記事もある。ちなみにGAFAがウェルス・マネジメント事業に乗り出した場合、興味を持つ富裕層の割合は99%だそうだ…

今回の特集は「投資先のパーソナライズ」「手数料のパーソナライズ」であった。前者の「投資先のパーソナライズ」はSDGs投資のようなサステイナブル投資に敏感な若い富裕層が増えてきたので、どうアピールするかという課題だ。弊社は特定の投資テーマに偏ることなく幅広い投資を可能としているため、投資先のパーソナライズという点では問題意識はない。クライアントがSDGsに投資をしたいとおっしゃるのであればそういった投資先を探してくるだけだ。

しかし後者の「手数料のパーソナライズ」については弊社では取り組みが遅れている。

香港のIFAの報酬体系

まず、香港のIFAの報酬体系についておおまかに確認しておこう。

私たちIFAの報酬は主に2つの柱で成立している。1つ目は生命保険などを販売したときに発生する販売手数料。これはクライアントからすると販売時の一度きりの手数料ではあるが、私たちはその総額を1年から5年程度かけて分割で受け取る。そして2つ目が資産運用商品におけるアドバイザリーフィー。販売手数料は投資額のx%を受け取り、アドバイザリーフィーでは運用成績にかかわらず運用額の1.0%前後を受け取る。ちなみにAMGでは1.0%。

この販売手数料とアドバイザリーフィーを商品によってどちらか一方、あるいはその両方を受け取る。そして私が知る限り香港のIFAが採用している報酬体系は販売手数料とアドバイザリーフィーの2種類しかない。パーソナライズしようとしても、ご贔屓のお客様のアドバイザリーフィーを減額するくらいしかできない。

しかし海をまたいでアメリカに行くと状況は一変する。すべての金融商品の販売額チャネルの30%近くを占めるIFA大国アメリカではフィー体系が実に多様なのだ。

資産が増えたときだけ支払う成功報酬もあれば、税理士のような毎月定額の顧問料、弁護士のような時間制(アワリーチャージ)を取り入れているところもある。そしてIFAファームがクライアントに応じて柔軟に報酬体系を変化させているのだ。どの手数料体系でも一長一短あるのは事実。たとえば成果が見えにくいだが、クライアントが幅広い選択肢のなかからIFAに対する報酬を決めることができるという意味ではさすがアメリカだ。

報酬体系の理想と現実のギャップ

富裕層レポートによると、全世界のウェルス・マネジメント業界においては現実の報酬体系とクライアントが望む報酬体系とではギャップが見られる。

報酬体系現実理想
成功報酬26%35%
サービス報酬11%15%
資産額に応じた報酬24%13%

最後の「資産額に応じた報酬」がまさに弊社でいうところのアドバイザリーフィー(資産額の1%)であるが、世界的にみると富裕層はアドバイザリーフィーよりも成功報酬を望んでいるといえる。ちなみにサービス報酬は資産の多い少ないに関係なくサービスの量によって定額料金を支払うという方式だ。たとえばポートフォリオ管理年間10万円、相続対策プラン年間5万円、といった具合。

成功報酬についてはIFAのリスクテイクが過ぎる傾向にあるので必ずしも最善の報酬体系だとは思わないが、素朴な感情として「儲かったら報酬を支払う」というのは納得感が強いのだろう。どの手数料体系も完全なものはなく、一長一短ある。

問題は、香港IFAが多様な報酬体系をクライアントに提示できていない点だ。なぜ香港のIFA業界の手数料体系が硬直的かというと、いくつか理由がある。

コンプライアンスがうるさい

コンプライアンス、と聞くだけでみぞおちの辺りが痛くなるアドバイザーは私だけではない。ここ数年で規制が急激に厳しくなった。シンプルな生命保険に入るだけで20箇所以上も書類にサインをしなければいけない、なんてこともある。

コンプライアンスという名目で無意味な書類の作成にうんざりしているアドバイザーは多いが、これにもし新しい報酬体系を加えたらどうなるか… また凄まじい量のドキュメントにリーガルチェックを経て… という仕事の量を考えると気が遠くなる。IFA都合の言い訳だが。

人手不足

新しい報酬体系を採用しようとすると、新しいルーティンワークが加わることになる。請求、領収、支払い催促。それに必要な人員を割けるかと言われれば… これもIFA都合の言い訳だ。

考えるのがめんどくさい

販売手数料については、金融商品の提供元が決定するためIFAが考える余地はない。しかしアドバイザリーフィーについてはIFAの裁量で決められる。しかしなぜか香港のIFAには金太郎飴のように1.0%/年ばかりなのだ。

ごくまれに1.5%と平均以上のアドバイザリーフィーみたいなところを見るものの、1.0%未満は見たことがない。もちろん探せばそういうIFAファームもあるのだろうけれど。なので「とりあえず横並びにしてとけば間違いない」という思考停止がそこにある。

それに、異なる報酬体系をもし新しく考えるのであれば知恵を絞らなければならない。自分でこの文章を書いてて情けなくなっているが、香港のIFAは知恵を絞らずに現状維持で満足しているということになる。

おたくの会社(AMG)はどうなのか

数年前、アメリカから香港に転勤されてきた方でIFAの報酬体系系についてよくご存知の方は「IFAの報酬体系について、聞かせてください」と質問してこられたことがあった。2種類の報酬について述べるたが、「それ以外にはないのですか」と聞かれて答えに窮したことがある。

その方は年間の固定報酬を望まれていたようだが弊社にその報酬体系がないことを知るとガッカリして去っていかれた。あのとき、望まれる報酬体系を提示していればお気持ちが変わったかもしれないと思うと悔しい。

以来、慣れ親しんだ報酬体系から今すぐ離れることはできないものの、お客様により多くの選択肢を提供するということで新しい手数料体系を模索している過程にはいる。報酬体系のパーソナライズは少しずつではあるが進んでいることは申し上げておきたい。


追記 – 成功報酬

仮にAMGで報酬体系の多様化が進むとしても、おそらく成功報酬は一番最後になるかもしれない。資産が増えたら報酬を支払い資産が減ったら報酬は払わないという成功報酬型の手数料体系は納得感が高いものの、アドバイザーにとってのポートフォリオ・マネジメントの動機はこのようになるからだ。

どうせ投資に失敗しても補填するわけではないが、資産が増えたらたっぷり報酬をもらえるのだから思いっきりリスクを取ろう

成功したらアドバイザーのもので、失敗の結果はすべてクライアントに帰するというこのアンバランスが、アドバイザーのモラルハザードを招きやすい。もし成功報酬があるならその裏返しとして失敗補填が必要ならばIFAはリスクテイクについて慎重にならざるを得ない。が、ご存知のとおり失敗補填はおよそ先進国では法律上認められていない。

感情として納得できることが、常に正しいことだとは限らないという一例だろう。おそらく投資家の方は「成功報酬であれば必死でマーケットの歪みを見つけて投資してくれるだろう」という期待があるのかもしれないが、それはたいてい裏切られることになる。成功報酬を採用するなら、IFAが購入する金融資産の種類を絞るなどして、リスクテイクを抑えるくふうをしなければならないだろう。

成功報酬はハイウォーターマーク式といって以前の最高点と現在の価値を比較し、現在価値が過去の最高点を上回っていればその部分について成功報酬を支払うというものだ。ヘッジファンドなどがこのハイウォーターマーク式の成功報酬が多いが、もしヘッジファンドの成績が低迷してファンド運営資金を拠出できない場合、ファンドを閉鎖する必要もある。

2000年代初頭に日本人に買われまくったイギリスのクオンツ系ヘッジファンド運営会社が何百とあるファンドを大量に閉鎖しているのも、このリターンの低迷によりハイウォーターマーク方式で手数料が取れなくなったことが原因の一つだと言われている。

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