2019年度版・富裕層のためのCRS対策

CRS(共通報告基準)、その抜け道とCRS対策に血道を上げることの馬鹿らしさ。CRSを回避する方法をいくつか挙げてみるが、結局は税務当局とのいたちごっこにすぎず、いかにきちんと納税するかを考えた方が吉。

OECDのCRS(Common Reporting Standard、共通報告基準)が施行されて2年が経過した。日本では2018年に情報交換がスタートし、2017年1月1日から12月31日の情報が昨年9月ごろには交換されたため、日本の各地の税務署にも今頃届いているかもしれない。CRSについては新聞その他のメディアでは取り上げられてはいたものの初めて耳にする方も多いだろうから、ここで一度おさらいしておく。CRSは簡単にいうと

非居住者の銀行、証券、保険などの金融資産、有価証券の取引を居住国の税務当局に報告する

という仕組みだ。たとえば日本居住者が香港に銀行口座を持ち、口座開設時に日本住所を届け出ているとその口座情報は日本の税務署に筒抜けになるという仕組みである。(逆に、香港人が日本に香港の住所で口座開設すれば日本の口座情報が香港の税務署に筒抜けになるが、日本の銀行で外国住所で口座開設するのは極めて難しいことからこのパターンは少ないだろう)

CRSの目的はただ一つ。「富裕層の税逃れを見逃さないようにするため」だ。

CRSが存在する以前は、税務当局が海外資産を補足するのは難しかった。かつてはスイスのプライベートバンカーが日本まで来て客から現金を受け取りにきていたし、また富裕層はスーツケースに現金を詰めてスイスに降り立つと空港で現金をカウントし入金することができた。現金を運べば足跡を残せない。

しかしプライベートバンク大手のUBSが富裕層のマネーロンダリングに加担したことが2008年に発覚して以降、富裕層の課税逃れに厳しい目が向けられた。このCRSフレームワークはOECDが2014年から先導し、2017年に第一回の交換、日本は2018年に初めて交換し現在100を越える国や地域が参加している。CRSの枠組みをさらに分解するとこのようになる。

  1. CRS参加国が
  2. 非居住者の金融資産を
  3. 居住国に報告する

こととなる。すなわちCRSをかわすためには

  1. CRS参加国でない国に金融資産を移せばよい
  2. 金融資産でなくすればよい
  3. 金融資産保有国=居住国にしてしまえばよい

一つずつ見ていくことにする

CRSをかわす方法3つ

1. CRS参加国でない国に金融資産を移す

日本はもちろんスイス、香港、シンガポール、マン島やケイマン諸島もCRSに参加している。これらの国の銀行や証券会社など金融機関を通じて金融資産があれば、その資産はこのCRSの枠組みを通じて報告されるといっていい。CRSの参加国リストやCRSで報告される内容については、国税庁のウェブサイトで確認できる

CRS参加国ではない国でオフショア国なのはモナコ、リヒテンシュタイン、アンゴラ公国だろう。これらの国に金融資産を移せば、CRSの報告対象から外れることになる。今のところは。

  • OECDの包囲網

ただ、OECDも指をくわえてこれらの国に富裕層マネーが流れることは良しとしていない。様々な圧力を加えてこれらの国々にCRSに加わるよう促しているし、「マネーロンダリング国」としてブラックリストに入れることで外国からの資金を遮断する、みたいなことも考えられる。今はCRS参加国ではないとしても、いずれ参加することになるものと考えられる。

CRSでは12月31日時点での資産が報告されるため、CRS参加国に金融資産があっても12月31日をまたいでCRS非参加国に資産を移動し、その後また戻す… みたいな方法をとっている方もいるかもしれない。

  • アメリカはCRS非参加国

アメリカはFATCAというCRSに似た制度がある。しかしFATCAはCRSのような相互互恵ではなくてアメリカ人の金融資産をあぶり出すものだ。すなわちアメリカ非居住者のアメリカ国内にある資産が実際の居住国に報告されることはない。

ただしこの事実をもって「アメリカに資産を移せばよい」というのは早計だ。アメリカは課税逃れのためにアメリカ国内に資産を移すことに対して最高で懲役30年という非常に厳しい罰則を設けている。実際にCRS対策コンサルタントがアメリカに資産を移すことに対して警鐘を鳴らしたりしている。アメリカに資産を移すのであれば、アメリカに居住したりアメリカで事業を始めたりなど強い反証を用意することが必要だろう。

2. 金融資産でない資産に形を変える

CRSは預金や証券、貯蓄性の保険などの有価証券や金融資産である。不動産や金地金はCRSの報告対象ではない。不動産は金融資産のように世界中を電磁的に転々とできないし、ゴールドバーも(量がおおければ)同じだろう。中国大陸の富裕層がこぞって香港の不動産を購入しているのも、もともと不動産投資が好きだという国民性もさることながらCRSの報告対象から逃れられるということもあろう。(ただし香港は不動産の所有者リストも中国政府に報告する計画がある)

3. 金融資産保有国=居住国にする

CRSでは、”Self-Certification(自己申告)”書類を書かなければ、自動的に金融機関が登録住所地を納税国とする。しかし逆にいうと自己申告すれば、納税国を居住地(たとえば日本)以外にすることができる。香港でもこの抜け道を利用し弁護士や会計士が以下のような入れ知恵をしている。

  • 香港に住所を作る

これが一番簡単な方法だが、どこかにマンションを借りて公共料金(電気、ガス)を支払う。CRSは公共料金の支払場所を納税国と推定することとしているから、その領収書を書証として香港に住んでいるという推定させる

  • 就労ビザを取得し所得税を納税する

香港に実際に納税するために、就労ビザを取得する。法人設立から3-6ヶ月でビザを取得し、実際に香港に納税する。

  • 実際に居住する

果たしてCRS対策だけでこれを実行するのはコスパが合うのかどうか疑問だが、香港では富裕層向けに法人設立、不動産、ビザ手配をすべてワンストップで手配する業者もいる。通常は不動産や不動産屋に、法人設立は会計事務所に、ビザはビザ屋にお願いするものだが、情報を可能な限り集約する。これはCRS報告から外れるためというよりも実際に香港でビジネスするなど、実利がある場合だろう。

CRSで捕捉されることを前提に正しく納税

以上、CRSの報告対象から外れる方法を書いたが実際にCRSで報告されて困る人は多くはない。弊社にも実際に相談があるのは

以前海外で事業をしてたときに海外に資産をつくり、当時日本で申告をするべきかどうかなんて考えもしなかったけれどもしょっちゅう日本に帰ってたし、当時もしかしたら申告をしなきゃいけなかったのかもしれない… でも稼いだおカネについてはすでに脱税の公訴時効(最大7年)も過ぎていて、別に資産を日本に戻しても戻さなくてもいいが、痛くもない腹を探られるのは嫌…

といったような方である。こういった方にはこうアドバイスしたい。

そもそもCRSに限らず、国際税務情報交換の枠組みは今後どんどん充実してくる、目の前のCRS対策に一生懸命になってもまた違う枠組みが登場してくることは想像に難くない、したがって可能な限り早めに顧問税理士に洗いざらい相談し納税していないものがあるならとっとと納税、その日から枕を高くして寝てください

と。

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