巨大化した中国債券市場が崩壊する時はくるか

中国の債券市場は国内だけでなく国外の投資家もひきつけてきた。しかし、その勢いに陰りが見えている。中国の債券市場に投資する際に知っておくべきこととは。

巨大化した中国の債券市場は世界経済に大きな影響

イタリアの政局が混乱し、クレジットマーケットの視線がヨーロッパに集まったが、2012年のユーロ危機のような緊張感はほとんどなかった。一方で、かつての中国の債券市場がこれから山場を迎えるのだが、これには投資家はあまり注目している様子はない。しかし中国の現在の債券市場規模は膨れ上がって11兆米ドルに達し、これは中国自身の直近のGDPに匹敵する規模となっている。つまり中国はここ数年で一気に借金漬けとなったのだ。そして今後、それら債券が順次償還を迎える。 もしこの中国の巨大債券市場の底が抜けてしまったら、すなわち債券価格が一気に下がって高い金利を提供しないと借り換えなど資金調達できないようになれば、今まで中国駆動だった世界経済は一気に冷え込むこととなる。今年の償還分だけで11兆米ドルのうち、1.7兆米ドル。2006年リーマン・ショック直前に世界のヘッジファンドが保有していた資産が1.7兆米ドルであるから、中国債券市場の成り行きによっては世界経済に大きな影響を及ぼすことは想像できるかと思う。



債券投資についての簡単なおさらい

債券が償還を迎えるときは元本も返さねばならない。たとえば満期10年の1億円の債券を5%の利回り(これをクーポンという)をつけて発行するとき、10年目には5%のクーポンと元本あわせて1億500万円を投資家に返済しなければならない。償還時点で会社に潤沢なキャッシュがあって返済原資がある場合はもちろんそれで構わないが、返済原資がない場合はまたどこからか資金を調達しなければならなくなる。でなければデフォルト(倒産)とみなされて銀行はもちろん債券市場からも今後の資金調達が非常に難しくなるからだ。

これまでの低金利環境では、本業の儲けが債券の償還に十分備えられる程度であれば償還が来ても新しい債券を発行すればよい。たとえば本業の儲けが10億円あれば、毎年500万円のクーポン支払いは苦にならないと判断されるだろう。

しかし債券発行が膨れに膨れ上がって本業の儲けは10億円から増えないのに毎年20億円の債券クーポン支払いをしなければいけない段階となればこの会社の発行する債券に投資してみようと思う投資家は少なくなる。そうなると今度はそのリスクに見合うだけのプレミアム、すなわち多額のクーポンを用意しなければいけなくなる。5%では見向きもされなくなり、毎年のクーポンを6%, 7%, 8%とあげていかないと「投資リスクに見合う」と投資家に評価してもらえなくなる(すなわち債券を通じておカネを貸してくれる投資家がいなくなる)。

個人でも「ローンの借り過ぎに注意」という告知がよくあるが、もちろん法人にもそれが言える。借り過ぎるとクビが回らなくなり、事業拡大のための債務というよりは債務返済のための債務を負ってしまうこととなる。 とはいえ個別の企業がデフォルトになることはよくある。実際に今年に入ってから債券発行した中国企業は12社デフォルトを起こしている。デフォルト自体は人間の生き死にが日常であるように、日常にある。

しかしこのデフォルト数が多くなってくると事態は加速度的に深刻になる。信用収縮が起きているのではないかと投資家が一気に資金を引き上げ、それがさらなる信用不安のトリガーとなるからだ。景気後退期に見られる、不安が不安を生む悪夢のサイクルのスタートだ。ここ数年はそんな様子は微塵も見られなかった。1950年から70年あまりの間に6回も破綻しているアルゼンチンの100年債(クーポン8.250%)が蒸発するように売れてしまった様子をみると、投資家のリスクテイクは行き過ぎの感がある。”高いクーポンをくれるなら、何に投資をしてもいい”という感覚なのだろう。

弊社でも高いクーポンに惹かれて中国国内の債券市場に投資をしている方は少なからずいらっしゃる。IFAとして適宜アドバイスはさせていただくのは当然として、この巨大な中国債券市場のリスクを俯瞰するための要素を内外に分けてみる。

中国国外の動き

連銀の利上げペース

連銀の利上げペースは世界の関心事である。今月、今年2回目の利上げが行われた。利上げが行われること自体は想定内だったのだが、今年あと2回の合計4回行われるとされたことは、今年あと1回の合計3回が市場コンセンサスだったことから市場を驚かせたといえる。失業率が異常に低い水準にあること、インフレが予想を上回る水準で推移していることなどから4回の利上げが正当化されるようだ。   ちなみに以下の連銀のドットプロット(今後の利上げの予想)を見るとあと1-2年で現在の水準から1%以上の利上げが予想されている。

new_dot_plot

会社の実力に比して安いクーポンの米ドル建て社債を発行している企業も多く、米ドルの基準金利が上昇することは次に社債を発行するときには同じ安いクーポンで借りることができなくなることを意味する。

米中貿易戦争

トランプ大統領が仕掛けている貿易戦争だが、今のところ着地点は見えず今後ますます先鋭化しそうな情勢だ。中国もアメリカに対して対抗措置をとることがほぼ確実な情勢で、どちらが覇権を握っているように見えるかというチキンレースの様相である。もちろんどちらも覇権を握っており、どちらかが強く見えたところで強く見せた当人ですらもトクしない。すでに鉄鋼やアルミなどの分野で影響が出始めている。

アメリカはバラマキ政策的な減税と財政支出で好調なだけに中国に強気に出られるわけだ。むしろ景気が良好なタイミングで行われたのは、中国経済に対抗するための布石だったのかもしれない。あのタイミングで国家財政の財布を緩めることにどういう意義があるのか、ニュースではさんざん言われていたからだ。

中国国内の動き

シャドー・バンキングの持続不可能性

シャドー・バンキングの持続不可能性が噂されて久しい。私どもも全く同意見で、金融市場が未成熟でリスクとはなんたるかを理解していない大多数の国民から、あたかも利回りを約束しているかのような売り方をしている。もちろんうまくいく事業も中にはあるだろうが、その目利きは仕組みを作っている金融機関も投資家もできるわけがない。 ちなみにシャドー・バンキングの融資残高は中国15兆米ドルと、債券市場の11兆ドルを上回る。

中国もこの問題に本腰を入れ始めており、これ以上シャドー・バンキングの残高が増えないよう新規で募集する理財商品の抑制にかかっている。しかし完全に抑え切ってしまうとシャドー・バンキングを頼りにしていた事業体がますますデフォルトを起こし社会不安につながるだろうから、中国政府としても大変に難しい綱渡りを迫られていることとなる。

メンツを気にして未整備な中国の倒産手続き

中国はメンツの国である。企業が倒産するということは、メンツにかかわる。企業も人間と同じく生き死にするわけだから、そこまで企業の死(=倒産)にこだわることなんてないんじゃないか、と思うのは私たちが企業の生死を当然のように受け入れる環境で育っているからだ。

また中国では裁判所から破産の決定をもらうまでに数年かかることも珍しくなく、個人がメンツを捨てて会社を清算したいと思っても行政がそれを許さなかったりする事情がある。会社は精算されていないのでその期間当然給与支払いや債務支払の義務がのしかかる。中国企業に「夜逃げ」が多いのは社長に責任感が足りないわけではなく、夜逃げするよりほかの方法がないという事情が大きい。

まとめ

先ほど、中国の旅行(航空/ホテル)コングロマリット、HNAグループに中国政府が支援するというニュースが入った。グループ全体で930億米ドルという途方もない借入金があり、その奔放な経営と後先考えない買収で有名な会社だ(日本のソフトバンクと比較されることも…)。中国政府がどのように支援するかははっきりしていないが、中国政府としても見てられない状況になったのだろう。

このように中国政府がちょいちょい介入することもあって投資家は楽観的である。「最後に政府がなんとかしてくれる」という安心感があるからだ。なにしろ国有企業を初めて倒産させたのが2014年だ。市場はまだまだ中国政府の大きな役割に甘えている。HNAグループのように「大きすぎて潰せない」会社は今後も中国政府のサポートが受けられるかもしれない。しかしその他の有象無象の会社はどうなるだろう。中国政府も無限にサポートはできない以上、今後の市場環境によっては投資家の甘い期待が手痛い損失に変わる可能性は頭に入れておいたほうがいいだろう。

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