コンボイの相場操縦の深い闇
IFA業界の雄であるコンボイ・ファイナンシャルがワラントを発行した直後に株価が不自然な動き。香港の検察特捜部にあたるICACも動き出す一大金融スキャンダルとなっている。
コンボイの相場操縦事件の経緯
師走の香港IFA業界に激震が走った。IFA業界の雄で上場もしているコンボイファイナンシャル(HK: 1019、以下コンボイ)のトップを含む4人の役員が12月8日に逮捕された。容疑は「相場操縦」である。コンボイは1993年創業で、香港IFA業界ではトップに君臨する。資産運用事業はもちろん、香港の年金のMPFや生命保険も多く販売する。一時期2,000人近くのアドバイザーを擁していたこともある(現在は1,400少し)。また昨今では証券、不動産融資やFintechビジネスなど様々なビジネスに出資をしており多角的に事業を展開していた。2016年の売上は12億香港ドルとある。
髭面のトップ、王利民(Quincy Lee Man)は業界の催し物でたまに見かけることがあり、アドバイザー数200足らずの弊社はどうコンボイに追いつけるかを同僚と話し合ったものである。また彼は大のマラソン好きでフルマラソンはもちろん数百キロを走破するウルトラマラソンにも出場するようなスポーツマンである。個人的には文武両道の彼には尊敬の念を抱いていた。
相場操縦の経緯はこうである。なお現時点では逮捕されただけで裁判が始まっていないので事実の経緯は私どもの推測によることをご容赦いただきたい。
ワラントを利用した会社私物化
まずは、「ワラント」という言葉を知っておかねばならない。ワラントとはネットで引くと
新株予約権証券ともいい、発行会社の株式を一定の価格(行使価格)で、定められた期間内(行使期間)に、取得できる権利を持つ有価証券のこと。
とある。保有者がワラントを行使すると行使価格を払いこみ、保有者は株式を得る。ワラントの保有者は市場で取引されている価格よりもワラントの行使価格が高ければ儲かるし、低ければ(行使期間内であれば)待っていてもよい。権利を行使しなくとも保有者のリスクはこのワラントの権利の取得価格に限定される。
コンボイはこのワラントを2011年2月16日と2013年2月25日に発行している。ワラントを発行すること自体は何の問題もない。ワラントの行使価格も発行時の株価水準であり公平性を欠くものではない。何が問題となっているかというと、ワラント発行の直後にコンボイの株価が急上昇しており、ワラント行使者にとって不自然なほどに好都合な相場環境が訪れているのだ。以下のグラフをみると、ワラント発行後株価が急騰しているのがわかる。
(Yahoo! Financeより)
ワラントは”コンボイの利害関係人でない”人(あるいは組織)に販売したという。資料によるとその数は6人以下。彼らがワラント発行後の高値で権利を行使したとすると、2013年に発行されたものだけで日本円で15億円以上の利益をもたらしたことになる。不自然な相場操縦で不当な利益を得たのは誰か。
不自然なワラント価格
ワラントの価格自体は2011年は0.02ドル、2013年は0.01ドルで発行されている。2011年は5,000万株、2013年のものでは8,000万株分がこのワラントに割り当てられた。2013年のものでいうとすなわち総額で80万香港ドル(1香港ドル14円で1,120万円)である。ある当時、手数料を差し引いてコンボイにもたらした収入はたかだか60万ドルである。当時の決算書をみても無借金かつ事業運転資金も潤沢にあったコンボイがべらぼうに安い金額でワラントを発行し新株を発行しなければならない道理はない。
なにより、2013年当時の市場で流通している浮動株が9,000万株少ししかない状況で8,000万株も新たに流れ込めば株主価値の希薄化を招く。6人のために公益を犠牲にしたと思われても不思議ではない。そしてその6人どう考えても”利害関係人”であると推測される。もちろん、コンボイはこの相場操縦について一切関与していないとの声明を発表している。
そしてまさにここが問題にしているのだが、ワラント発行直後にクズ株同然の扱いだったコンボイの株の取引量が急増、株価が急騰している。
誰が株価を吊り上げたのか
コンボイは上場している株式会社なので、誰でも市場を通じて株式を買うことができる。しかしコンボイだけでなく大手と比べれば些末な上場会社の株式は安定株主が主要であることが多い。今年の5月にとある投資家がブログで発表した記事によると、コンボイも多数の会社と株式の持ち合いをしている。すなわち株価上昇の恩恵は彼らが享受するのだ。
ブログではナチス・ドイツの暗号機になぞらえて「エニグマネットワーク」と呼ばれているが、まさに会社間の株式の持ち合い関係を理解するのが至難の技だ。もし株価を吊り上げたグループがいるとすれば、コンボイの株式を持っている会社関係社だろう。あるいはこれら会社を背後で操っているさらなる大物か。
今後捜査機関はこれら関係者から重点的に取り調べをすることになろう。なお、コンボイの株式は事件発覚後7%下落したのち本日に至るまで取引停止となっている。
ICAC
今回のコンボイ事件で一つ目新しいことがあった。通常、相場操縦など市場にかかわる犯罪についてはSFC(証券先物事務監察委員会)が管轄する。これが日本の金融庁に該当する。一方ICACといえば中国語で廉政公署というその名のとおり、政治家の汚職などをメインに扱う機関であった。日本でいう検察特捜部といったところか。そのSFCとICACが今回初めて結託して捜査にあたったのだ。
香港はビジネスの街だ。外資を呼び込むことで成立しているような街だ。もし行政が何某かの理由で不当に有利な扱いをしたりするとそれを嫌気して香港から資本が逃げ出す。香港がビジネスに優しい街だと感じるのは、外国資本を差別したりしないからであり、それはICACが最後の砦として担保しているといっていい。
検察特捜部は日本では遠い存在だがICACは街のあちこちに派出所を設けていることもあり身近である。しかしその中身といえば泣く子も黙る存在である。ICACは政治や行政などより大きな公益を保全するためにあるが、証券市場も公平性が非常に重要な要素であることを鑑みるとICACが動いたというのは当然といえば当然だ。
ただ世間では今回ICACが動いたことで「この事件の背後には政治家がいるのではないか」「小型株を狙った一部の投資家グループが芋づる式に逮捕されるのではないか」などと噂されている。ちなみに相場操縦は刑事犯罪で、最大で10年以下の懲役となる。今回逮捕されたトップ4人がワラント発行後の相場操縦について知らないという可能性もゼロではないが、前述したようなごくわずかなワラントの売上を目当てに既存の株主をないがしろにするというのは常識では考えられない。
トップ4人が自分の自社の株式を通じて一般の投資家を欺き利を得ようとしたと考えるのが常識だろう。
顧客のカネ
コンボイが今回の事件で失うものは信用だけではない。10万人いるといわれている顧客の何割かがコンボイから移管することになるだろう。また、コンボイの売上の9割が保険方投資商品(ILAS, Investment Linked Assurance Scheme)である。投資家を騙してズルいことをする会社から資産運用商品を買おうとは思わないだろう。
ただし、顧客の投資資金については保全されているのでコンボイの顧客であっても心配する必要はない。IFAは仕組み上、客の資産には一切タッチできない。とはいえ、担当のアドバイザーがコンボイから他ファームへの移転を考えている可能性は十分ある。
実際、営業マンであるアドバイザーが蜘蛛の子を散らすように他のIFA事務所の門を叩いているという。弊社AMGにもすでに数チームからの問い合わせがあった。またコンボイは日本人顧客もいる。もしあなたがコンボイの顧客で今回の件で不安になっているとすれば、ぜひ弊社AMGを移管先としてご検討いただきたい。