新型コロナウィルス流行による世界同時株安から学ぶべきこと
旧正月明けから激しく揺れ始めた金融市場は、ついに世界同時株安へ。波乱の中から得られる投資経験とは何かを考える
旧正月明けの中国、週末明けの世界のストーリーは基本的に同じか否か
中国は2020年は1月末から2月始めが旧正月=春節という時期であり、民族大移動すら起こる大型連休でした。金融市場=取引所というのは国家の祝日には合わせて営業されるもので、中国株式市場もこの間はお休み。再開されたのは2月3日でした。中国国内での感染が大事として万人に捉えられたのは旧正月最中であり、結果的に2月3日は溜まりに溜まった需給を吐き出す形となり、以下の通り、例えば上海株式指数は大きく下落しました。しかし、結果的にはかなりの部分を戻しています。
今回2月24日から始まった週を見てみると、やはり前週末にかけての感染者数拡大のニュースがトリガーになったとは言えるかなと思います。しかし、もともと感染者数が増えることは予想されていましたから大きなサプライズではないはずなのになぜだろうと思った人も多いことでしょう。一つの要因としては24日の祝日のための東京市場の休場もあったかもしれません。日経平均に関して言えば海外での日経平均先物市場ということで、国内投資家不在の中、やや需給に偏りが出やすいところから株価下落のニュースが始まったのを覚えています。昨今、あらゆる情報が一瞬で伝播する金融市場にしては反応が「改めての公開ニュース」に依存したことは興味深いところです。株式市場の参加者は一般の方も多い中、やはり目に見える報道がどれだけインパクトがあるかというのを目にした瞬間であったとは言えるでしょうか。
しばらくは新型コロナウィルスが全世界を駆け巡るでしょうから、いま今見て取れる動きが「株価調整」で終わるものなのか、を見極める必要はありそうです。
一時的な収益下落は本来は株価に影響を与えない
では、その後進行した世界同時株安をもってどうアクションするのが良いのでしょう。一般的な話を少しだけしてみます。
株価推定モデルにおいて組み込まれるのは将来の配当だったりフリーキャッシュフローだったりするので、単年度の収益がガタっと落ちたからといって株価そのものが大きく下がるのは肯定しづらいです。もちろん影響がゼロというわけではないですが、長期的に見れば抹殺されるレベルのものであることは確かです。このように話すと、では一時的な株価下落に対しては、買い注文を入れれば必ず勝てるのでは、という人が出てきます。一側面においてYesです。ただし、そもそもモデルの推定が合っているのかということと、もともと推定どおりの株価だったのか(過熱状態になかったか)といったことも当然ながら影響します。
大局観として大事なのは、企業の収益構造が変わるとか、あるいはキャッシュフローが急悪化して高利での借入を余儀なくされ、それが後々の収益に大きく響く事態になるなど、いわば後遺症のようなものがどれだけ残っていくかによるということです。
ここまではどちらかと言えば理論的な話です。次は現実的な話をしましょう。
実際は東証99%の銘柄が値下がり
ただし、市場には悲観的なムード、あるいは別の要因で現金化が必要になって投げ売るケースも存在するので、やはり一時的な同時株安は起こります。実際、祝日明けの2月25日に東証上場銘柄の99%は値下がりを記録したようです。投資家は常に理性的に動いているわけではないということがここでのポイントです。
一方で、真に株式投資家として大成するならば、理性のウェイトを高め、例えばこの残りの1%(26銘柄)は何だったのかを見てみることをお勧めしたいと思います。ウィルスに絡んだ治療薬特需を材料視された企業(富士フィルム)があることに気付くでしょうし、たまたま何かコーポレートイベントが重なっただけ(ユニゾHDに対する米投資会社ブラックストーンのTOB)のこともあるでしょう。漫然と「あ!上がった!あ!下がった!」と株式市場を見ているよりはずっと勉強にはなると思います。
セクター(業態)別に見てみるという選択肢を持つ
パッシブ投資家には難しいかもしれませんが、個別株でないにせよ、今は上場投資信託(ETF)という投資の選択肢を利用してセクター(業態等)に投資をする術もあります。実際、株価の下がり具合、株価の戻り具合を見るにあたってセクター別に見てみるのは有効です。
いわゆる市場インデックスというのは加重平均なので、一部が下がれば全体が下がる、ただし全体が下がったから、どこもかしこも下がったと考えるのは短絡的だということです。株価が下がったというニュースに対して、一体どこの業界の株が下がったことを言っているのか?と問うことができるようになれば金融市場を見る目が養えているということになるでしょう。
震源地に近いところで勝負をすることは常にリスクが高い
「震源地は最も値動きが大きく、分かりやすい。」金融市場で変わった動きがあったとして、原因が分かりづらいとき、金融市場参加者は”震源地”の推定を行います。例えば為替で言えば、ドル円が急速に円安方向に向かったとして、それはドル高だったのか円高だったのか、それは全面ドル高だったのか、全面円安だったのか、など。全面ドル高であればアメリカで何かが起こったのでしょう、じゃあアメリカの株式はどうか債券はどうか、といった具合です。
投資家の基本動作として「安く買って高く売る」を忠実に行う方々にとって、安くなったものを探すのは当然です。一方で、例えば飛行機がまるっきり飛ばなくなる航空業界は今は苦しい、あとは平常運行に戻るから、今は株は買いどきだ、という発想は少しだけ立ち止まって考えるべき内容でしょう。前述のとおり、航空業界的にはパタッと休みに入っただけであって、収益構造は変わっていないので、株価に大きな影響はないとも考えることも可能だからです。もちろん短期トレードができないことを言っているわけではないが、この手のトレードはアルゴリズムなどを駆使した機械判断の方が得意なこともあります。金融市場にずっと張り付いている人以外が焦って手を付けるには、事の発端たる”震源地”はあまり環境がいいとは言えないかもしれませんね。
遠目に見ながら勝負をすることのメリットと、そのリスク
少し発想を変えてみましょう。「中国の景気が下振れるのはどうやら避けられそうにありません、その余波が現れるのはどこでしょう。中国は一大石油消費国なので、原油価格が下がっているのではないか。」こういう発想は「少し距離を置いた投資の仕方」として有効だと個人的には思います。イベントに対する感応度は落ちますが、その分値動きに多少のタイムラグもあるので、落ち着いて行動ができる可能性が高くなります。よりロジカルな値動きが想定できるケースが多く、投資経験としても良いものになり得ます。原油価格の場合、政治的な駆け引きも存在するので、投資対象としての難しさはありますが。(*石油の売買を推奨しているわけではなく、一例です。)
様々な投資インデックスはそれぞれ相関があります。火中の栗を拾うのではなく、その火を利用して焼き芋でもしようかという人が現れるのを見越して、火に強い長い棒をもともと売っている人に注目する、といった具合です。
ただし、注意したいのは、遠く離れる分、別のリスクに晒される可能性は排除できません。中国と比較的仲の良いとされるドイツは中国景気減速の影響を大きく受けるかもしれません、ただし、もっと重要なことはドイツの国内景気そのものはどうかということだったりするわけです。「コロナトレード」を仕掛けて「ドイツトレード」に負けては意味がないからです。一定の投資ファクターが成り立っても、それを超えるファクターの存在を無視してはいけません。様々な角度から検証してゴーサインが出るのならばきっとそれは良い投資になると思います。
最後に、自らの投資スタンスを変えないとしたときにメリットに映るかどうか
色々雑談めいた話をしましたが、何よりも重要なことは一喜一憂することなく自らの投資家のスタンスを貫くことです。そして自らの投資スタンスに照らして新しく訪れた市場の局面はメリットなのかデメリットなのかを見定め、焦ることなく必要であればアクションすることです。多くの投資家はこの「自らの投資スタンス」が確立していないがためにブレにブレるので、本来安く買って高く売るべきものを、高く買って安く売るという行動ギャップが発生します。この機会に、ご自身の投資における快適エリア(Comfortable Zone)を探してみてください。