債券市場概観 – 2018年7月

先月の債券市場をざっくり概観。日本国債急落のニュース。格付けとデフォルト確率の関係を確認する。

はじめに

先日、東京からいらしたお客様が「東京よりも香港のほうが涼しい。香港に避暑に行く時代が来るかもね」とおっしゃっていました。香港は短時間のバケツをひっくり返したような土砂降りが時折あり、つかの間の涼を与えています。 さて先月に引き続き、債券市場について今月もざっくり概観してまいります。この「債券市場概観」シリーズのお約束ごとを最初に記しておきますね。

クローズド・アカウント内限定の債券に特化

弊社には有価証券、ファンドは事実上なんでも買える”オープンアカウント”と買えるものがある程度限定されている”クローズドアカウント”の2種類をご用意してございます。このシリーズではクローズド・アカウント内で購入可能な債券を対象としており、債券市場全体を対象としているわけではありません。もしお探しの債券がリストになくともオープンアカウント内で購入できる可能性がありますので、お問い合わせ頂ければと思います。

債券市場一言コメント

 

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過去5年分の債券指数(Bloomberg Barclays Global-Aggregate Total Return Index :LEGATRUU)を概観してみますと、はやり連銀の利上げが始まった2016年暮れのタイミングで一度ガクッと落ちてます。また上昇しています。連銀の利上げペースが依然として年3-4回であることが事前周知(フォワード・ガイダンス)されていると考えると今後数カ月はやはり株式市場の動向が大きくカギを握りそうです。幸い、米中貿易戦争の効果はまだ明確には現れておらず、世界は好景気に沸いていますから大きく債券価格が落ちるのは当面先かもしれないね、ということをアドバイザー同士が話しておりました。

個人的には「日本国債急落」ニュースが刺さりました。7月22日に日銀が政策を変更するかも、ということで日本国債の価格が急落して「来るべき時が来たか」とパンドラの箱が開きかけた印象を受けましたが、結局は日銀が日本国債爆買い路線を継続するということで今は落ち着いていますね。日本はバブル崩壊後から世界に先駆けて様々な金融政策事例を残していますが、何をどうやってもこの低インフレ状態から脱することは難しいようです。この中央銀行のバランスシートをパンパンにしてもターゲットを達成できなかった事例として、世界中から研究事例として使われちゃいそうです。その研究結果が明らかになるの当分先で、今すぐインフレ・今すぐデフレマインド払拭とならないのが辛いところ。とはいえ成熟期を過ぎたと言われるアメリカでも先日4.1%のGDP増を達成しているわけですから、同じく成熟期を過ぎたといわれる日本にも頑張ってほしいところです。

個別の債券でみると、中国の不動産系が底堅く、大連万達グループの債券(たとえばISIN: XS1023280271)などは底が抜けることもなく奮闘していますね。先月お伝えしたHNA Group(2021年10月満期6.250% ISIN: XS1499773098が政府支援を受けられるかもしれない、というニュースは続報なく株価は3年ぶりの安値をつけました。航空会社でも「大きすぎて潰せない」ということがあるのでしょうか。HNA Groupへの中国政府の関与は、今後の中国債券市場の試金石となりますから今後の動向を引き続き見守りましょう。

格付けとデフォルトレートの関係

債券投資を検討しているお客様からほぼ100%聞かれるご質問に

格付けってどれくらい参考にするべき?

というものがあります。格付けは企業の財務体質から判断されるもので、たとえば格付会社のスタンダード&プアーズ(S&P)はリーマンショックが再来してもビクともしない一番高い格付けAAAから、すでに破綻状態にあるDまで様々な格付けがあり、中でもBBB以上かBB以下かの分水嶺で、投資適格かそうでないかと大きく分けられます。そして投資家の皆様は格付けを非常に気にされます。格付けの高いものを買えば安心ですが、それだけ利回りが落ちることになります。逆に低いものは利回りが高いけれどもデフォルトを起こしておカネが返ってこない可能性を心配していなきゃいけません。債券投資では常にこのトレードオフに悩むことになります。 年金基金などは投資適格以上の債券にしか投資してはいけないというルールがあったりします。逆にハイイールド債ファンド、みたいな名前のファンドは投資先がほとんど投資適格でないジャンク債であったりします。投資適格でないから投資できないわけではなく投資適格でないジャンク債ばかりに投資をしている方もいます。ジャンク債のデフォルトレートがそこまで高くないことを喝破しジャンク債キングと言われた往年のマイケル・ミルケンのようですね。 そんなマイケル・ミルケンとは逆に、投資適格=絶対安心、ジャンク債=即破綻みたいなイメージを持ってらっしゃる方もけっこういらっしゃるようですので、そうではないことを数字でみてみましょう。

 

ご覧のとおり、BBB以上の投資適格債券であっても破綻するときはします。すなわち”投資適格”であっても破綻を絶対に免れるわけではありません。金利が上昇していく局面や不景気にはジャンク債はもちろん投資適格以上でもデフォルトを起こすのです。
こちら参考になりましたら幸いです。

クローズド・アカウントで購入可能な債券本数

現在

570

本がクローズド・アカウントにて購入可能です。購入可能な債券リストはこちら(Google Spredsheetに飛びます)。

ランキング

1. 値動きトップ 2. 値動きワースト 3. ハイイールド の3つのカテゴリーでのランキングです。ランキングの母体は上述のリストからです。同じ会社で複数債券を発行している場合は、その中でもっとも良い(悪い)ものを1つだけ選んでいます(数字は7月31日時点のものです)。値動きの計測期間は過去1ヶ月です。オファープライスはお取引価格(債券価格と未確定クーポンを足したもの)、格付けは特に断りがない限りS&Pのものを使います。

値動きトップ3本

この1ヶ月で債券価格が上昇したもの上位3本です。

上昇幅+23%, CHIHUI 6.500% 16Aug2020 Corp (USD)

先月大きく値を下げていた中国の飲料会社、中国匯源果汁集団です。ピューレ市場に進出するとあって値を上げたのでしょうか。

オファープライスUSD158,502
格付けCCC+
満期までのイールド(実質利回り)22.22 %
表面利回り6.500%
償還期限2020年8月16日

上昇幅 +11.4%, CSCHCN 7.250% 20Nov2022 Corp (USD)

中国の総合商社、華南城控股有限公司です。

オファープライスUSD158,592
格付けB-
満期までのイールド(実質利回り)14.58%
表面利回り7.250%
償還期限2022年11月20日

上昇幅+6.2%, NOBLSP 6.000% Perpetual Corp (USD)

香港の資源商社、Noble Groupです。実質破綻状態なのに債券価格が上昇する怪。魑魅魍魎が跋扈する空気がぷんぷん。

オファープライスUSD24,842
格付けD
満期までのイールド(実質利回り)59.48%
表面利回り6.000%
償還期限永久債

値動きワースト3本

この1ヶ月で債券価格が下落したもの上位3本です。

下落幅-19%, STANLN Float Perpetual Corp (USD)

スタンダード&チャータード銀行です。銀行系が急落しているわけでもなく、スタンダード&チャータード銀行の債券すべてが急落しているわけでもなくこの変動クーポン型のものだけ急落しています。

オファープライスUSD88,211.33
格付けBB
満期までのイールド(実質利回り)4.489%
表面利回り変動(現在3.848%)
償還期限永久債

下落幅-6.9%, THHTGP 7.875% 17Jan2021 Corp (USD)

香港の大新保険を泰禾(Ta Hoe)という投資会社が買収した後、泰禾保険となりました。鳴り物入りで香港市場上陸で、広告費もふんだんに使い、弊社にも営業の方々がお見えになっていましたがなかなか苦しい立ち上がりのようです。

オファープライスUSD168,066
格付けなし
満期までのイールド(実質利回り)16.2%
表面利回り7.785%
償還期限2021年1月17日

下落幅-5%, HSINCG 8.500% 22Jan2019 Corp (USD)

Hsin Chong Group Holdings Limited(新昌營造集團有限公司)は香港の不動産デベロッパーです。わりと香港の金持ちがレバレッジ効かせて買ってるイメージですが、5月にデフォルト宣言してから流動性が極端に落ちています。

オファープライスUSD44,472
格付けなし
満期までのイールド(実質利回り)489%
表面利回り8.500%
償還期限2019年1月22日

ハイイールド上位3本

ハイイールド(High Yield)とは、もともとクーポンが高かったり債券価格が大きく下がって満期を迎えたときにより大きなリターンを手にすることができる債券のことです。

1,581%, AUSGSP 8.450% 20Oct2018 Corp(SGD)

先月から引き続きハイイールドのトップの座を守った、オーストラリアのマイニングなどエネルギー会社のAus Groupです。3ヶ月後の償還に向けてですが、実質破綻状態にある以上誰も手出しできない状態なのでしょう。

オファープライスSGD140,645
格付けなし
満期までのイールド(実質利回り)1,581%
表面利回り8.45%
償還期限2018年10月20日

489%, HSINCG 8.500% 22Jan2019 Corp(USD)

下落幅3位の香港不動産デベロッパーです。

オファープライスUSD44,472
格付けなし
満期までのイールド(実質利回り)489%
表面利回り8.500%
償還期限2019年1月22日

77%, NOBLSP 6.750% 29Jan2020 Corp (USD)

こちらも常連、香港の資源・農作物商社です。満期の異なるものですね。

オファープライスUSD47,744
格付けD
満期までのイールド(実質利回り)77%
表面利回り6.75%
償還期限2020年1月29日

お問い合わせ

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