プライベートバンクからCoCo債券(偶発転換社債)を勧められたら立ち止まって考えるべきリスク
プライベートバンクから提案され、なんだか特別感のある債券であるCoCo債券(CoCos,偶発転換社債)は投資に値するか。ハイブリッド証券と言われるが、ハイリスク・ローリターンかもしれない。
富裕層担当アドバイザーの宮脇健です。今回は、利回りが高い債券の一つであるCoCo債券について考えてみましょう。なぜプライベートバンクではCoCo債券が提案されるのか、そして投資するメリット・デメリットについて整理します。
CoCo債券(ココ債、偶発転換社債)とは?
CoCo債券はいわゆるハイブリッド証券です。ハイブリッドと聞くと、なんかスゴそう、良さそうと思うかもしれませんが、要するに債券の性質に特定の条件=トリガーをかけあわせた”ちょっぴり複雑な証券”なのです。
そもそもCoCo債券とは、Contingent Convertible Bonds(偶発転換社債)の略です。つまり、”ある特定の条件を満たすと、株式に強制的に転換される、あるいは元本を削減される性質を持った債券”です。
「ある特定の条件」は、トリガーと呼ばれ、すなわち「自己資本比率が一定水準以下に下がったとき≒株価が非常に下がったとき」です。株価が下がるときというのは往々にして経営が危ういときですから、そんなときに、本来安全資産であった債券が、リスク資産である株式に変わる、あるいは元本全額が返ってこないということになります。しかもトリガーはトリガーですから、たとえその会社が経営破綻していなくても、です。
要するに、「経営がヤバくなったらそのリスクを投資家に負ってもらう債券」ということです。まずはCoCo債はシンプルな債券ではなくリスクが高そうだという感覚は持っていただけたでしょうか。
ちなみにそしてCoCo債はヨーロッパの金融機関が発行する債券です。日本やアメリカではCoCo債の発行は認められていません。
CoCo債と一口にいっても様々な金融機関が発行していますが、このトリガーは多くの場合、「自己資本比率、より正確には中核的自己資本(CET1)比率=5.125%」とされています。一方、実際のCET1比率は10〜14%くらいはあり、銀行側も十分なバッファーを持って管理していますから、トリガーに抵触する確率自体は非常に低いとは思っていて良いかとは思います。
CoCo債券がハイリスク・ハイリターンだと言われるわけ
先にお伝えしたとおり、CoCo債券は株式と債券の中間に位置するものですから、そもそもCoCo債券について、「債券だから安全だ」という発想から入るのは間違っています。実際、その債券が発行した会社がデフォルトした場合には、いわゆる普通債券(シニア債)の次に弁済されることになります。ただし、株式よりは先に弁済されます。そのためリスクは高いと考えるべきです。その分ハイイールド債のようにリターンを見込むこともできるわけです。
また、CoCo債といっても実は色々あり、金利が固定から変動に変わってしまったり、期限前償還となり得るコール期日を考える必要があったりと、ポートフォリオの中でどんな役割を担うのか、一見分かりづらいという性質があります。
CoCo債券は比較的最近出回り始めたタイプの債券です。2010年頃から欧州の金融機関を中心に発行が広まったものですから、そういう意味ではリーマンショックを乗り越えた債券ではありません。実際に金融危機が起こったらどうなるか、までは分からないということも一つのリスクです。最近はCoCo債券に投資をするファンドまで出て来ているので身近になりつつあるのも事実ですが。
しばしばCoCo債券はPerpetual Bonds(永久債)でもあります。永久債の話は以前のブログでも触れており、魅力に思って購入された方もいらっしゃるかもしれませんが、その永久債がCoCo債なのか、は要チェックです。全く違うリスクの債券に変貌することもあるからです。
なぜプライベートバンクはCoCo債券を勧めるのか?
① あなたが利回りを求めているから
前述の”複雑さ”ゆえに劣後債やコーラブル債などと並んで、高利回りの債券として知られています。なので、「保守的に運用して欲しいが、利回りも欲しい」と(本来矛盾していることを)言われたときについつい出てきてしまうものなのです。
② 最低購入金額のハードルが少し高いから
そもそもCoCo債券に限らず、現物債券は最低購入金額が、例えばUSD200,000(約2,000万円)といった具合に、少し高めに設定されているケースがほとんどです。プライベートバンクで運用を検討される方はこのハードルを超えているため、CoCo債券の提案を受けやすい立場にあります。
③ ちょっと複雑な商品の方がプライベートバンクっぽい提案になるから
現物債券の最低購入金額は何も特別な話ではないのですが、逆に何の特色もない普通の債券を勧められた場合、どのように思うでしょうか。「大口客なんだからなんかもっといいの持ってきてよ」「なんかもっと面白いやつないのか」なんて心の中で思っていないでしょうか。投資において大事なことはご自身がリスクを理解することなのですが、一方でご自身が理解しきれないものを提案されたときに、人は特別扱いされ、かつ相手が専門家であると感じることもあるようです。
どんなときにCoCo債券を買うべきか?
ここまでで注意点について多く話しましたので、「あれれ?CoCo債券はハイリスク・ローリターンじゃないか」と思われた方もいたかもしれません。
しかし、「債券の中でも利回りが相対的に高い」「富裕層だからこそ買える」ことは事実なので、タイミング次第ではいい投資なのです。
また、CoCo債券を避けて、債券で利回りを求める場合、投機的格付け(BBB以下)の中でもより低い格付けの債券になりますから、果たしてその方がいいのか、という比較にはなってきます。
足元、CoCo債券は投資タイミングとして少し難しい局面のように個人的には思います。理由は、
① CoCo債券を多く発行している銀行セクターにとっては低金利が続いて経営が厳しい状況
② 債券市場そのものに過熱感があり、本来の魅力である”高利回り”が享受できないし、価格下落で塩漬けになりやすい状況
だからです。
①は本来であれば、CoCo債に対して投資するチャンスを作るはずなのですが、②によりそのチャンスが潰されてしまっています。
もちろん既に保有されている方が今すぐ手放すべき、ということではなくて、単純に今から買うのはリスク対比のリターンとして少しもったいないかな、ということです。例えば、弊社であれば、一時的にはリスクを抑え、流動性の高いポートフォリオを組み、債券価格が落ち着いたところで、改めて債券ポートフォリオを組むといったことも可能です。
最後に
保守的な運用をしたいがために、とりあえず債券で、という方は少なからずいらっしゃいますが、債券を買うことがどのような場合でも常に保守的というわけではありません。市場環境をよく見るべきです。
CoCo債は、香港だからこそ買うことのできる債券の典型でもあるので、もう少し具体的に話を聞いてみたいという方がいらっしゃいましたら、ご相談ください。